リサーチ・レポート
クオリティ銘柄で防衛する時?
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2024年12月26日
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2024年12月26日
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クオリティ銘柄で防衛する時? |
6月末に、私たちは株式市場が高い利益成長を前提とした、高PER(株価収益率)の株価で取引されていることに懸念を表明しました。株式市場が「米国経済の無敵の強さと、生成AI(GenAI)がもたらす巨大なインパクトという2つの確信に支配されていた」ためです。6月末には、MSCIワールド指数は1株当たり予想利益(12ヶ月先)の18.5倍で取引されていて、予想利益が2025年に13%増加、2026年には10%増加すると見込まれていました。1
ボラティリティの急上昇から2ヵ月が経過し、株式市場はほぼ元の状態に戻っています。予想PERは18.7倍まで上昇し、年2桁の利益成長が依然として予想され、株式市場は急落前よりも小幅に上昇しています。しかしながら、7月から8月にかけての騒動は、株式市場の急落局面における、私たちのグローバル・ポートフォリオのディフェンシブ(防衛的)な特性について、安心感を与えてくれました。
7-9月期の株式市場は、数週間に亘り、まるで私たちと同じ懸念を持っているかのような展開が続きました。つまり、4-6月期の決算発表シーズンでは、急速に加速している生成AI(GenAI)への設備投資によって稼いできた「ハイパースケーラー企業」の投下資本利益率について疑問が生じ、7月には生成AIのバブルから空気が抜けたのです。また8月初頭には、米国の雇用統計が低調だったことや、サービス業PMI指数(購買担当者景気指数)が製造業PMI指数に続いて景気縮小を示す水準に低下したことで、経済全体の成長率についても不安が生じました。その上、円キャリー・トレードの解消を背景に、日本の株式市場が1日で12%も下落し、VIX指数2は、取引時間中に高値60まで急上昇したことも、全般的な不況感に拍車をかけました。米国ニューヨーク・タイムズ紙によると、「リセッション(景気後退)」という単語のグーグル検索数が、リーマンショックの時と同じ水準まで上昇したそうです。株式市場のヒステリックな投げ売りは、もっとひどい暴落を示唆していたのかもしれませんが、1 MSCIワールド指数は7月のピークから8月5日の底値まで8%強下落し、これまで強力だったエヌビディア株式は25%以上下落しました。1
市場は、その後落ち着きを取り戻しました。MSCIワールド指数は史上最高値まで反発し、VIX指数は15と落ち着いた通常レベルの水準に戻りました。3 傷ついた日本市場でさえ、8月初めの水準近くまで回復しました。しかし「ハイテク」セクターは、本レポートの執筆時点においてそれほど回復していません。例えば、エヌビディア株式の2024年の上昇率は、現在のところ(高い成長が期待される割には)“わずか”140%しかないのです。1
このリバウンドは、私たちが6月末に表明した懸念材料が、まだ残っていることを意味しています。前述したように、特にS&P500株価指数が予想利益の21倍以上に引き伸ばされているように、予想利益に対するPERが高いため、株式市場は依然として割高です。そしてこれらの企業の利益が2桁で成長するには、すでに記録的な水準にある売上利益率が、さらに上昇する必要があります。1 差し迫った景気後退の可能性は低そうですが、ブルームバーグの経済指標によれば、世界各国の経済は、ネガティブ・サプライズに直面しています。3 また、2025年末までに9~10回の利下げが予定されているなど、最近噴出している利下げに対する楽観論が、本当にインフレや賃金のデータによって完全に裏付けられているのかどうか、あるいは2桁の利益成長を促進するような経済情勢に基づいているのかどうかははっきりとしていません。全体として、まるで恐怖が起こらなかったかのような、穏やかなシナリオが、再び市場に織り込まれています。
さらに、7-9月期には、「マグニフィセント・セブン」銘柄がMSCIワールド指数を多少アンダーパフォームしたにもかかわらず、9月末にはS&P500株価指数の構成割合の27%を、わずか5社が占め、米国市場がグローバル株価指数の構成割合の70%以上を占めるなど、株式市場は依然として、極めて集中した状態にあります。1 株価指数ファンドを保有しても、多くの人が思い描くような分散投資は困難です。また、FTSEラッセルとS&Pダウ・ジョーンズという大手指数プロバイダー2社は、株価指数を構成する個別銘柄のウェイトについて、上限を設けることを検討し始める状況に至りました。これは、自動的に、実質的に彼らがアクティブ・マネージャーになるということです。
一方で、良いニュースは、生成AIと経済情勢全般に対する懸念が表面化し、株式市場が売り込まれる期間中、私たちのグローバル・ポートフォリオは、期待通りにレジリエンス(抵抗力)を発揮したことです。ハイテク銘柄がピークをつけた7月10日から8月5日の底値までのパフォーマンスを要約すると、次のようになります。日本円のキャリー・トレードの巻き戻しによるパニックで、MSCIワールド指数は7%下落しました。この期間中、私たちのグローバル・ポートフォリオは、逆に1%程度上昇し、株式市場下落へ連動することを抑制するポートフォリオ特性を実証したのです。
ポートフォリオの超過リターンの多くは、8月の残りの期間に株式市場が反発したため「リターン返上」となりましたが、7-9月期のパフォーマンスでは、ポートフォリオはまだ株価指数を上回っています。今後を展望すると、もし強気派の見方が本当に正しく生成AIブームが継続して、市場が想定しているような大幅な利益成長が見込まれる場合には、私たちのポートフォリオの相対パフォーマンスは、平凡なものになる可能性が高いといえます。しかしながら、生成AIの熱狂が冷めるか、株式市場の急速な利益成長が実現しない場合のどちらかのケースであれば(両方である可能性も疑い無くありますが)、利益の回復力があって妥当なバリュエーションのポートフォリオは、最近の暴落時のように、質の高いディフェンス(防衛力)を提供するでしょう。株式投資で損をする方法は2つしかありません。利益が無くなるか、PERの倍率が下がるかです。現在のところ、株式市場にとって、どちらのリスクも高まっているように見えますが、防衛力のある私たちのポートフォリオの方がリスクは低いといえるでしょう。
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マネージング・ディレクター
インターナショナル株式運用チーム
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