リサーチ・レポート
NVIDIAを保有しない意味
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2024年9月19日
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2024年9月19日
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NVIDIAを保有しない意味 |
世界の株式市場は、高い利益予想と、それに基づく高いPERに戻りました。MSCIワールド指数の足元の株価は、一株当たり予想利益(12 ヶ月先)の18.5倍で、またすでに利益率が記録的に高い水準にもかかわらず、来年2025年の一株当たり予想利益は、2024年より12%増加すると予想されています1。株式市場は、無敵の米国経済と、生成AI(GenAI)がもたらす巨大インパクトという2つの確信に支配されているかのようです。
2020年のコロナ禍の特殊なケースを除くと、米国では過去15年間に一度も景気後退がなかったため、米国経済に対して自信を持つのは無理もないことです。また、株式市場が生成AIにエキサイトするのは、鉄道からインターネットに至るまで、潜在的に社会に変革をもたらすテクノロジーの歴史に沿った行動といえます。このような市場環境は、厳しい経済情勢下でも変わらず利益を計上する事業実績と定評のある勝ち組企業をピックアップする投資哲学にとっては、容易な市場環境ではありません。投資家がリスク「オン」の姿勢を取り、株式市場が企業の指数関数的な成長曲線に執着し、銘柄の選定が「AIらしさ」によって評価される状況下においては、妥当なバリュエーションで投資し、長期的な複利的増益を目的とする企業のポートフォリオは流行ではありません。しかし、もし株式市場の一般的な通説というものが誤りであったり、崩れ始めたとしたらどうでしょうか?
私たちが保有する企業は、概ね複利的な利益成長を続けていて、生成AIの第二波の恩恵を受ける可能性のある優良企業も含まれています。これらの銘柄は、独自のデータをコントロールできる企業であり、業界でも強力な立ち位置にあると考えます。しかし、生成AI の第一波の「勝ち組」銘柄のような株価の暴騰をまだ見ていません。このような話は、1990年代終わりのインターネット・バブルを経験した投資家にとっては、驚くべきことではありません。近年、企業のクオリティは、企業の成長性と混同されるようになっています。多くのクオリティ・マネージャーと称する運用会社は、臆面もなく、現在の株価上昇の勝ち組銘柄は、記念品的なクオリティ銘柄であると主張しているようです。このような勘違い相場は、すでに鉄の意思を試すのに十分なほど長く続いているため、半導体はまだ景気循環的な特徴を持っているのだろうかという会話が始まり、そして、時価総額3 兆ドル超になった企業に話題が向かうのです。:つまり、エヌビディア株式の投資ポジションが話題になるのです。
時価総額が売上高の20倍以上、株価収益率(PER)2が40倍以上で評価され、フォーブス誌において「この10年間で最もホットな銘柄」(2024年6月)と賛美されたこの企業は、最近の減速を考慮しても、スタートアップ企業に近い成長率を示しており、予想利益はわずか2年前の5 倍という驚異的な伸びを示しています。エヌビディアは、データセンターのグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)で90%~95%の市場シェアを占め、EBIT(利払い前・税引き前利益)マージンは60%以上で、ドットコム・バブルの時価総額の増加分の80%相当を1 社で生み出しています。ただし、現在の株価は2つの仮定を大前提としていると考えています。その大前提とは、生成AIの大規模な商業利用が本当に実現すること、もう一つはエヌビディアの優位性が続くことです。
生成AIは、コーディングから顧客対応、画像生成など、様々な分野で大きな可能性を秘めています。私たちが投資ポートフォリオに組み入れている、豊富なデータを保有しているいくつかの企業は、今後、生成AIの恩恵を受けると期待しています。しかしながら、少なくとも現在までのところ、生成AIの潜在的なエンドユーザーであるほとんどの企業は、生成AIの明確な利用ケースを見つけられずに苦労しています。つまり、実態は生成AIに大きく賭けているというより、むしろ実験的な利用段階といえるでしょう。株式市場には、数年後に年間1兆米ドル近い生成AIの設備投資が行われるという予測がある一方、私たちが保有している世界有数のITサービス企業がこの1年間で報告したように、生成AI関連から発生する利益はわずか5 億米ドルに過ぎなかったという、明確な差異が存在しています。
もう1つの脅威は、エヌビディアの4大顧客(現在エヌビディアの利益の約40%を占める、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット、メタの4社)が、エヌビディアH100システム、もしくは次世代チップBlackwell(2025年)やRubin(2026年)に代わる低価格の代替品の開発に成功した場合でしょう。経済学の原則が脳裏に浮かびます。異常な利益は、まず異常な投機を呼び、次に異常な過当競争を引き起こすのです。さらに、エヌビディアの大成功の歴史の中で、2002年、2008年、2018年、2022年には、株価が50%から90%も大きく下落しています。これらの過去の下落が示すように、設備投資の恩恵である半導体に対する需要には(今日のトレンドがどうであろうと)、固有のシクリカル性が存在しているのです。
誤解を避けるために言っておきますが、私たちはエヌビディア株式について、弱気な見方をしているわけではありません。上昇の可能性は十分にあり、下落の可能性も十分にあるということです。市場参加者の多くは、「上昇の可能性」を重視している様子ですが、私たちがエヌビディア株式を保有しないのは、このように非常に幅の広い結果が想定されるためです。私たちの投資戦略は変化を受け入れ、時間の経過とともに大きく進化しています。フラッグシップのグローバル株式戦略における生活必需品セクターの構成比率は、過去10年間で60%超から20%未満にまで低下しました。また、GICSとして知られる世界産業分類基準で、昨年他のセクターに移行した銘柄を除いても、情報技術セクターがポートフォリオの4分の1を超えるようになりました。しかし、私たちは、高い投下資本利益率と価格決定力をもたらす強力な無形資産、継続的な売上、そして十分で低下し難い企業成長、これらすべてを満たす妥当なバリュエーションの銘柄という、戦略開始以来変わらぬ特徴を引き続き追及しています。また、特に生活必需品銘柄とヘルスケア銘柄において、いくつかの重要な教訓を得ました。株価評価で割安に見える場合でも、好業績にあまり株価が反応しない一方で、ネガティブ・サプライズには過大に下落する場合には、忍耐強く保有しないようにします。また、変革をもたらすような買収、特に中核事業の既存の問題を覆い隠すような買収には、より警戒する必要があると認識しています。
最近の相対的なパフォーマンスから、当運用チームに対する投資家の皆様の信頼が低下しているかもしれませんが、私たちの経験豊富な投資チームは、保有企業の将来性は良好であると見ています。私たちのポートフォリオの保有銘柄は進化を続けています。ポートフォリオには、歯科医療や鎮痛剤で強力な商品を持つ企業から、急成長している女性向け医療サービスの医療技術、創薬をサポートする革新的なライフサイエンス企業、デジタル音楽企業、生成AIの恩恵を受ける大手データ企業、そして時代の定番であるクラウドベースのSaaS、データ、決済、保険ブローカーに至るまで、様々な企業が含まれています。過去四半世紀にわたり二桁の複利運用を達成してきた実績から、これらの銘柄により、株式市場と同水準のフリー・キャッシュ・フロー利回りという、妥当なバリュエーションで、下落し難い売上成長と高い利益成長を提供するポートフォリオが可能であると確信しています。
現在の株価指数の銘柄構成と経済の順風満帆な状況では、強力な相対的パフォーマンスを提供することは困難になっています。私たちは、独自のクオリティ調査プロセスと、バリュエーション及びファンダメンタルズ重視の投資姿勢を堅持しています。私たちは、絶対的な複利的増益という点にフォーカスすることで、過去にも成功し、将来も成功し続けると確信しています。株式市場全般への期待の高さと、直接的に生成AIの恩恵を受ける企業(そして益々特別な1社)に対する期待の高さを背景に、私たちは株式市場の見通しに関して神経質になっています。株式投資で損をする方法は2つしかありません。企業の利益が低下するか、PERが低下するかです。私たちの「二つの拘りの」投資哲学(つまり、株価が妥当な評価水準であると同時に利益が低下し難いこと)は、十分な複利的増益によって、両方のリスクを軽減するのに役立つはずです。
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マネージング・ディレクター
インターナショナル株式運用チーム
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マネージング・ディレクター、チーフ・オペレーティング・オフィサー 兼 顧客エクスペリエンス責任者
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