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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2024年4月8日

『誰も何も知らない』・・・しかし、市場はこう考えている

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2024年4月8日

『誰も何も知らない』・・・しかし、市場はこう考えている


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『誰も何も知らない』・・・しかし、市場はこう考えている

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2024年4月8日

 
 

次の有名な言葉は、脚本家のウィリアム・ゴールドマンの映画ビジネスについてのものです:「誰も何も知らない・・・ 映画業界全体を見渡しても、何が上手くいくかを確実に知っている人間は一人もいない。毎回それは推測であり、もし上手くいったなら、それは経験によるものです。」

 
 
"
長期的に見れば、市場が変動した時の秘訣は、-いつもの事ですが-保有し続けて、健全な絶対リターンを長期的に挙げることと言えます。
 
 
 

ゴールドマン氏は、「大統領の陰謀」、「マラソンマン」、「明日に向って撃て!」、「ステップフォード・ワイフ」など、数々の古い名ヒット作の脚本家です。しかし彼の言葉の賢明さは、彼の最高傑作であり、(著者に言わせれば)間違いなく史上最高の映画である『プリンセス・ブライド・ストーリー』の、想像を絶する失敗が物語っています。『プリンセス・ブライド・ストーリー』は映画の公開時は失敗しましたが、その後カルト的な人気を獲得したのです。

2023年は、当惑させるような一連の社会規範の動きを考えると、「誰も何も知らない」という考え方を裏付ける年でした。景気後退の懸念から始まり、続いて長期的な金利の高止まりの予想となり、2023年末の米国のフェデラル・ファンド・レートの予想水準は4.5%から、3月までに5.5%に上昇しました。春にはシリコンバレー・バンクが破たんし、信用収縮が懸念されましたが、その懸念が和らぐにつれ市場は、人工知能(AI)主導による生産性向上ブームへの期待感に沸きました。秋には、より高い金利が長期化するとの観測が、より強く復活し、2024年末のフェデラル・ファンド・レートの予想水準が5%に近づき、株式市場は低迷しました。その後、米国連邦準備制度理事会(FRB)が突然政策の基調を転換し、2024年に6~7回の利下げを実施するとの見方が強まったため、株式市場は9週連続で上昇して、2023年の年末を迎えました。

物理学者のニールス・ボーアが、「予測、特に未来についての予測は非常に難しい」と断言したのは、確かに正しかったのです。長く続いたパンデミックの影響が、まだ経済情勢に残っているため、現在は、通常よりも予測が更に困難な状況です。供給サイド

の大混乱と、需要サイドの政府による大規模な介入は、いまだ大きな波紋を広げています。パンデミックの期間は、物への支出が急増し、経済活動が通常に戻った後はサービスへの支出に切り替わりましたが、結果としてパンデミックの期間には供給問題もあって、製品、特に自動車価格にインフレが発生しました。その後、パンデミック期間中に削減した従業員を再雇用するため、企業はより高い賃金を支払わなければならなくなり、今度はサービスにインフレが生じました。製品からサービスへの支出の転換は、景気を予測するために使われてきた製品に関する先行指標が、2023年に景気後退に陥ることを誤って示唆していたことを意味しています。同時に、アナリストたちは、パンデミックの間に米国で積み上げられた「過剰貯蓄」(政府による巨額の景気刺激策のおかげ)が、現在の非常に低い貯蓄率とそれに伴う高い消費水準を、いつまで継続させることができるのかを計算しようとしています。これらに加えて、私たちは、ウクライナ戦争に端を発した欧州のエネルギーショックの影響や、中東の紛争が拡大する可能性などの不確定要素について考える必要があります。

前向きな性格の方なら、2024年に向けて多くのプラス材料を挙げることができるでしょう。現在、インフレ率は急速に低下しているようですが、米国では失業率が大幅に上昇することなく4%を下回っています1。米国の2023年の実質国内総生産(GDP)は+2.5%でしたが、2022年後半時点ではほぼゼロに近い予想値でした2。2024年のGDP予想値は+1.3%に上昇し、夏に予想されたGDP予想値の2倍になりました。また、実質賃金の上昇に支えられたためか、消費者信頼感指数はついに、改善しています。インフレ議論に関して、「過度的派(歳出継続・利下げを推奨)」が勝利しているようですが、FRBが最近ハト派的なトーンを示しているのもそのためでしょう。生成AIは、生産性向上ブーム(インフレの抑制につながる)の到来を予感させます。そして短期的には、ハイパー・スケーラー(100万台規模のサーバーリソースを保有する企業)が、需要に対応するためデータセンターを必死で拡張し、米国の「CHIPS and Science Act(通称:CHIPS法)」、及びそれらに相当する米国外の法律が半導体工場の増設を奨励したため、設備投資ブームが起きました。「マグニフィセント・セブン3」又は少なくとも2023年に収益を伸ばした5社は、今後も利益増加の原動力となるはずです。

もっと懸念を持った見方をすれば、飛行機が滑走路の手前に着陸したり、滑走路を越えたりする可能性があるため、米国は渇望するソフトランディングをまだ完了していない状態です。ソフトランディングの実例は少なく、第二次世界大戦以降、米国の金融引き締め期間の4分の3は景気後退に終わっています。労働市場は依然としてタイトで、失業率は4%を下回り、アトランタ連邦準備銀行が示す賃金上昇率は5%を超えています。そのため、すでにインフレがゼロに近づいている製品の部門と比べると、サービス部門のインフレを克服するのは困難でしょう。

会計帳簿の反対側(負債側)では、最近の525ベーシスの利上げの悪影響は、まだ顕在化する可能性があります。歴史的に1年から2年のタイムラグがあるため、「フリーマネー」の世界から離れたところで、金融システム上でまだ何か事件が発生するかもしれません。米国以外の国も、状況は楽観的ではありません。欧州経済は失速寸前で、2024年のGDP成長率が–1%を下回る事が織り込まれ始めています。そして、購買担当者景気指数はマイナス圏にあります。中国は、数十年にわたる不動産ブームの大きな後遺症と、長期化する可能性がある消費者心理の悪化(住宅価格と株価の下落が相まって、最近のパンデミックの打撃の後、さらに家計の財産に悪影響を与えるため)と格闘し続けています。さらに、インフレ率の低下が続けば、景気後退が回避されたとしても企業は値上げに苦戦し、特に賃上げが続いていることが明確になってくると、企業の利益率を圧迫する可能性があります。これに加えて、地政学的に不安定な環境を考慮する必要があり、特に今年は64ヵ国で選挙があり、20億人が投票します。

世界経済が最終的に「晴れ」か「曇り」のどちらに位置づけられるか、私たちは明確な見解を持っていません。しかし、株式市場は明らかに、「晴れ」を織り込んでいると我々は考えます。MSCIワールド指数の予想EPSは、2024年に10%近く、2025年には11%以上上昇すると予想されています4。しかし、先進国の2024年の名目GDPの成長率の予想値が+3%~4%であることを考えると、この予想EPSの達成は難しいと思われ、また企業の利益率は、現在のピークに近い水準から、さらに上昇が必要であることを示唆しています。マイナス面では、第二次世界大戦以降の米国の景気後退の11回すべてにおいて、S&P500株価指数は2桁の下落率を記録し、平均すると30%下落しています5。またこれらの潜在的に楽観的な予想EPSに基づいてさえ、予想PER(株価収益率)は高く見えます。2023年末時点でMSCIワールド指数は、12ヶ月先の予想EPSに対するPERが17.3倍で、S&P500は、実績EPSに対するPERが20倍でした。話題の多い「マグニフィセント・セブン」の銘柄を除いても、MSCIワールド指数の予想PERは15.9倍で、成長著しい7銘柄を含めると、予想PERは2003年から2019年の平均を10%以上上回っていました(12月末時点)6。野心的な予想EPSと、高い水準の予想PERのため、株価の上昇余地は限定的であり、一方で、景気後退に陥れば下振れする可能性は十分にあるため、好ましく無い偏った状況にあると言えます。2023年の株式市場の活況は、未来のリターンを前倒しで拝借しただけなのかもしれません。

ギリシャの哲学者のプラトンによれば、彼の師のソクラテスは「私が知っていることは唯一つ。それは私が何も知らないということであり、自分の無知を知っているという点で、私は最も賢い人間であるといえる」と主張しました。もし彼がアテナで処刑されることなく(奇跡的に)21世紀まで生きていたとしたら、ソクラテスはコンパウンダー企業に投資したことでしょう。ソクラテスは、自分は他の誰よりも賢いと主張するほど傲慢でしたが、向上するマクロ環境に賭けるのではなく、「価格決定力」と「継続的な売上」を持つ企業に投資する謙虚さは、持ち合わせていたことでしょう。そのような企業は、2020年のような景気後退期においても堅実な収益を稼ぎ、そして2022年のような予想PERが低下する局面においては、予想PERの低下は限定的でした(元より妥当な水準であったため)。このような投資手法は、市場の熱狂に一致するとは限らず、2023年においては正に、一致していませんでした。なお2023年のパフォーマンスの「10%台後半の絶対リターン」は、私たちが従来から意識する水準で、完全に健全でした。私たちの投資手法を考えると、短期的な対ベンチマークリターンをコントロールすることはできません。長期的に見れば、市場が変動した時の秘訣は、-いつもの事ですが-保有し続けて、健全な絶対リターンを長期的に挙げることと言えます。

私たちのグローバル・ポートフォリオにおいては、ディフェンシブな生活必需品セクターと、ヘルスケア・セクターのコンパウンダー企業を保有し、この2セクターは対MSCIワールド指数でオーバーウェイトであり、一方で2023年には2セクターともにMSCIワールド指数を20%以上アンダーパフォームしたため、オーバーウェイトは足を引っ張ることとなりました。これらのディフェンシブ・セクターのオーバーウェイトは、裏を返せば、60%以上のリターンを上げた「マグニフィセント・セブン」銘柄をアンダーウェイトしたということです。私たちのポートフォリオでは、7つの銘柄のうち1つか2つしか保有していないため、MSCIワールド指数をアンダーパフォームしました。しかし、私たちの投資哲学では、「マグニフィセント・セブン」銘柄のいくつかに投資することはできません。eコマースとクラウド・コンピューティング(他にベンチャー事業も進めている)に注力する米国の多国籍テクノロジー企業は、株式報酬を差し引くと、大きなフリー・キャッシュ・フローを継続的に生み出しているとは言えず、投下資本利益率も低水準です。米国のソーシャルメディア企業は、予想EPSが2021年後半には16ドル、2022年末には8ドルへ下落、そして昨年には上昇し、上下しました。更に長期的なビジネスモデルやガバナンスに対する疑念があります。一方、アメリカの多国籍自動車・クリーンエネルギー企業は、2023年に株価が2倍になりましたが、その年の予想EPSはピーク時から半減しました。その他では、バリュエーションに関する懸念がより大きいといえます。米国のグラフィック・プロセッシング・ユニットと集積回路システムの会社の株価は、売上の27倍に達しています。また、旨味のありそうな多国籍テクノロジー企業の30倍の予想PERは、定期的なサービス収入の増加は評価されるものの、利益成長に苦労し、単一製品に依存している事を勘案すれば、割高に思えます。これらの企業が、今後、素晴らしいリターンを生み出さないという意味ではなく、EPSとPERの両方の持続性という二重の懸念点から、私たちの高クウォリティなポートフォリオの運用手法に、これらの企業は適していないということです。この投資哲学と運用手法を厳格に守ることが、四半世紀以上にわたって資産の増幅に成功してきた基本であり、私たちはこれからも守り続けるつもりです。皆様も是非そうしてください・・・『プリンセス・ブライド・ストーリー』を観ながら。

 
 

1 出所: FactSet
2 出所: Bloomberg
3 Alphabet, Amazon, Apple, Meta, Microsoft, Nvidia and Tesla.
4 出所: FactSet
全米経済研究所
6 出所: FactSet

 
bruno.paulson
マネージング・ディレクター
インターナショナル株式運用チーム
 
 
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