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独力で考える
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2024年9月10日
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2024年9月10日
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株価指数に投資するインデックス投資の場合には、投資するタイミングが重要です。株式市場は、企業の高い成長期待を織り込んでいて、MSCIワールド株価指数では、今後2年間で2桁の利益成長率を見込まれており、その予想利益に基づく予想PERは高く、その上、利益率はピークに達しています。私たちの見方では、この状況は、パッシブ投資家にとってリスクとなっています。現在、3つのコンセンサスに基づく投資家行動が、世界の株式市場を席捲しています:すなわち、米国経済への投資、明確なAI関連銘柄の保有、米国経済のソフトランディング又はノーランディング(景気が減速しない)を想定したポジショニングです。もしこれら3つのコンセンサス以外の予想が優勢になった場合、インデックス投資家は相対的に困難な状況に陥るかもしれません。
多くの株式投資家にとって、インデックス投資はこの数年間、容易に利益を得られる選択肢でした。歴史的な低金利の状況と、金融当局が緩和政策を取った時代において、米国10年債利回りは、2010年の4%から2020年には、わずか0.5%に低下しました。一方でS&P500株価指数の予想株価収益率(PER)は14倍から18倍に上昇しました1。2022年の株式市場の下落以降、S&P500株価指数の構成銘柄の予想PERは上昇を続け、2022年の最低水準から40%近く高い21倍に戻っています2。海の満ち潮が全てのボートを陸に引き上げるのに役立つように、インデックス投資は大きなリターンを計上しています:S&Pグローバル社のSPIVA調査によると、米国では過去1年間、3年間、5年間、10年間、15年間のどの投資期間においても、パッシブ投資は、ほとんどの大型株式のアクティブ投資ファンドの成績を凌駕しています3。一般投資家にとって、インデックス投資の透明性や流動性、そして低い運用コストなども魅力的なポイントになっています。
アクティブ投資か、パッシブ投資かという議論がしばしば話題になりますが、どちらか一方に決める必要はありません。実際、ポートフォリオの運用管理において、インデックス投資とアクティブ投資の両方を両立させることが効果的である場合があります。両方の投資手法を、どのようにバランスさせるかは、投資家の投資目的、選好する投資の時間軸、リスク選好度(リスクの定義がトラッキング・エラーであれ、損失金額であれ)によって決めることが可能です。
アクティブか、パッシブかという難問
パッシブ投資を選択したとしても、それは依然としてアクティブ投資としての意思決定といえます。インデックス・インダストリー・アソシエーション4によると、世界中には300万を超える株価指数が存在し、その数は上場株式銘柄の何と50倍以上なのです!5指数を追跡することを選択すること自体、もしくは指数の組み合わせを選択すること自体が、投資家にとってはアクティブ投資としての意思決定なのです。
次にリスクに関する点です。インデックス・ファンドを通じて多くの株式銘柄を保有することで、投資家は分散投資のプラス効果を期待しているのかもしれません。しかし、企業のクオリティやバリュエーションに関係なく全ての銘柄を保有することが、果たして投資家にとってポートフォリオを分散する最善の方法なのでしょうか?同様に、多くの運用会社や投資家は、投資対象の相対的リスクに着目しているため、現在の株式市場は居心地の良い避難場所となっています。しかし、世界に広く認知され投資対象となっている株価指数は、一般的に時価総額加重で構成されています。株価指数において、銘柄を時価総額に基づいて加重することは、果たして賢明なことなのでしょうか?投資家は「群衆の叡智」を期待するかもしれませんが、しかし代わりに、「クラウディッド・トレード」(資金が集中した熱狂状態)に投資することになります。上昇相場では、特に時価総額加重で構成された株価指数は、構成銘柄が偏っていきます。なぜならば、「勝者」とみなされる銘柄の株価のバリュエーションが、ファンダメンタルズの合理的水準を超えて上昇し、そしてパッシブ投資の株価指数の「勝者」の構成比率が、機械的にさらに拡大するためです。モルガン・スタンレーの最近の調査6によると、S&P500株価指数の上位銘柄への集中度が歴史的な極限レベルまで高まっており、「今日の投資テーマ」などのサイクルが変わる際の急速な下落に対する脆弱性が高まっています。
このようなリスクは、他のいくつかの株価指数を構成する最大構成銘柄との連動性によって、さらに増幅されています。例えばS&P500株価指数では、最大構成銘柄の最近の動向は、生成AI(人工知能)への期待に満ちた業績予想によって牽引されています。もちろん、投資家はグローバル株価指数に連動することで、このようなテーマ・リスクの分散を試みることもできますが、グローバル株価指数における米国のウェイトが過去最大7になっているため、投資家が期待するリスク分散の効果を達成できない可能性があります。代わりに、銘柄を均等構成した株価指数を使うことによって、この問題を回避しようとすると、最近の歪みがもたらした投資機会を逃すという犠牲を伴うかもしれません。
自分で選択できることのメリット
パッシブ・ファンドは、広範囲のエクスポージャーを提供するため、戦術的な投資テーマへ迅速に低コストでアクセスできますが、特に株価指数の構成銘柄に偏りがある場合、投資家は自分で選択できる投資機会が他にもあります。株価がファンダメンタルズから乖離した場合、熟練した投資家は、優位に立つことができます。―もちろん、予想株価収益率の力による上昇相場に勢いが残っている場合は、長い投資時間を持つ余裕があればですが。
パッシブ投資の場合と同様、アクティブ投資の運用会社を選定する際にも、投資家は多くの選択に直面することになります。アクティブ投資の運用会社によっては、投資方針にトラッキング・エラーの制限があるため、投資家が目標としているアクティブとパッシブの「バランス」が崩れてしまう可能性があるからです。
ベンチマークにとらわれない私たちの投資チームの集中投資型の投資戦略は、インデックス投資に対する有効な釣合いを提供できると考えています。それは何故でしょうか?
• 私たちは、世界中で最もクオリティの高いと思われる企業を所有することを目指しています。すでに高い投下資本利益率を維持し、長期にわたって着実に利益とキャッシュ・フローを増加させ、厳しい時代にも回復力を発揮する経営能力を持つと考えられる、リーズナブルな価格の高クオリティ企業に、私たちはフォーカスしています。
• つまり、長期的投資で確信度が高く、アクティブ度の高い株式ポートフォリオを選択することによって、高く買って安く売るという行動バイアスに抵抗して継続投資を行うコミットメント・デバイスを提供できるのです。私たちは、株式の短期的な戦術的賃借人ではなく、長期的な企業の所有者として行動することを目指します。
• 私たちは、所有していない企業の現在の株価やパフォーマンスよりも、所有している企業のファンダメンタルズに注意を払っています。私たちは、現在も過去においても、絶対的なものに対してフォーカスしています:すなわち、絶対的な評価額、絶対的なパフォーマンス、絶対的なクオリティのことです。
• 企業のファンダメンタルズを重視する私たちは、最近の株式市場が「ハイテク」銘柄に偏っていることを利用しています。ディフェンシブ・セクター、特に生活必需品セクターとヘルスケア・セクターの出遅れと、それに伴う株価のばらつきは、2024年1-3 月期のグローバル株式ポートフォリオにおいて、ヘルスケア銘柄と生活必需品銘柄の双方について、魅力的な株価で購入するエントリー・ポイントとなりました。
• トラッキング・エラーを最小限に抑えようとする投資家は、株式市場の上昇局面に全面的に参加しますが、重要な点は、株式市場の下落局面においても同様に、全面的に市場に参加しているのです。利益が長期にわたって安定的に増加する高クオリティ企業のアクティブ・ポートフォリオに投資することで、投資資金が永続的に失われるリスクを軽減することができます。
• 長い投資期間をかけて、高クオリティ企業に集中投資するポートフォリオを運用することにより、私たちはお客様を代表して、株主としての効果的なエンゲージメントを企業に対して実行し、資金配分から報酬やインセンティブ、戦略、リスク、投資機会まで、財務上の重要事項について企業に関与し、企業の複利的利益増幅能力が損なわれていないことを確認することができます。
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2016 年の『ニューヨーカー』誌の記事8には、パッシブ投資の台頭により、株価やボラティリティ、企業のファンダメンタルズに対する確信度といった伝統的な投資の検討事項とは関係なく、投資資金が超巨大企業に注ぎ込まれ、投資判断が「益々自動操縦になる」可能性があるという懸念が掲載されていました。超巨大企業が株価指数の大きな構成比率を占める状況では、着実で回復力が高い、複利的利益増加に焦点を当てたボトムアップ式の高クオリティ戦略は、―特に株式市場が下落した場合に―有効な補完手段となり、投資家にとっては群衆から差別化する一つの方法であると思います。ベンジャミン・グレアムが語ったように、「ウォール街で成功するためには2つの要件があります。ひとつは、あなたは正しく考えなければならないということです。そして、もうひとつは、あなたは独力で考えなければならないということです。」
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インターナショナル・エクイティ運用チーム責任者
インターナショナル株式運用チーム
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