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GLP-1:推論の重み
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2024年3月14日
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GLP-1:推論の重み |
肥満は、最も蔓延している健康問題の1つです。2035年までに世界の人口の約4分の1(25%)が肥満になると予想されており、この割合は2020年の14%から大幅に上昇しています1。肥満は、個人に精神的および肉体的な影響を与えますが、世界経済にも広範囲にわたる影響を及ぼしています:マクロ経済への悪影響は、米国の国内総生産(GDP)の3.6%に相当すると推定されており、生産性の低下に伴う間接的な損失は1兆2,400億ドルに上る可能性があります2。
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)製剤は、肥満に対する画期的な治療薬として知られており、ここ最近の米国食品医薬品局(FDA)による承認を受けて、複数の製薬会社が生産体制を強化しています3。
GLP-1は、食べ物を摂取すると消化管や脳で分泌される天然ホルモンで、血糖値が高くなりすぎると、膵臓に作用してインスリンが分泌され、血糖値の正常化を助けます。GLP-1に類似する製剤は、主に2型糖尿病の治療薬として2010年から使用されています。何が新しいのでしょうか?以前にはGLP-1を注射しても、膵臓に到達するまでに十分に持続しませんでした。市販されている新薬は、この問題を解決することに成功しています。これは、肥満を解消する上で飛躍的な進歩と言えます。研究によると、この新薬を服用することにより、体重を10~20%減量し、食べ物の量を最大50%削減できる可能性があり、GLP-1を服用すると、肥満患者による加工食品やスナック菓子の過剰摂取を避けられるかもしれません。これ以外に、GLP-1製剤は脳内における刺激と快感の関連性を弱めることが可能であるため、これを服用した患者は、アルコール、麻薬やタバコの消費を抑えることができたとも報告されています。
GLP-1製剤が広く普及すれば、様々な業界に大きな影響が及ぶと考えられています。例えば、航空機の乗客の体重が軽ければ、航空会社は燃料を節約することができます4。
こうした中で、株式市場ではGLP-1製剤メーカーの株価が上昇する一方で、メドテック銘柄や食品・飲料銘柄の株価が下落しています。私たちはボトムアップ・アプローチにより、詳細なリサーチを行う長期投資家として、GLP-1製剤の開発によるポートフォリオへの中長期的な影響は最低限に抑えられると考えていますが、これによる広範な影響を軽視しているわけではありません。現時点では、体重を減少させるためにGLP-1を服用している人は米国の人口の1%未満に過ぎませんが、医学的には米国の人口の約30%が肥満です。ここでは議論を単純化するために、この薬の服用者が2034年までに米国の人口の約10%に達すると仮定します。
生活必需品
一部のアナリストは、GLP-1製剤の服用により、カロリー摂取量を15%~20%減らすことが可能であると推定しています。この数値に基づくと、仮に2,500万~5,000万の米国人が、2030年までにこの薬を服用すると仮定した場合、米国民全体のカロリー摂取量を1%~3%減らせる可能性があります5。GLP-1製剤がこれらの製品の消費を抑制できるということは、まだ立証されていませんが、これらの新薬の開発により、米国の食品・飲料業界は、今後一桁台半ばのペースで売上を拡大させることが非常に困難になる可能性があります。市場はこのことを織り込んでおり、米国の食品、飲料、タバコセクターの株価は2023年年初から10月末までに9.9%下落しており、株価収益率が米国株式市場全体と比べて10%以上割安な水準で取引されていました6。
ポートフォリオへの影響に関して言えば、食品メーカーは価格決定力が限定的な低成長・低リターンの業種であると考えているため、私たちは食品メーカーの銘柄を保有していません。私たちが保有している米国の多国籍清涼飲料水メーカーは、一見するとリスクにさらされているように見えますが、ビジネスモデルを評価すると、実際にはそうではありません。この清涼飲料水メーカーの製品構成の約70%は、ノンカロリーまた低カロリーの飲料であり、これらは新薬による影響を受ける可能性が低い製品です。一方、売上の約80%は米国外からもたらされており7、米国外ではこの薬の普及が遅れる可能性があります。タバコやアルコールにはテール・リスクが存在する一方で、GLP-1製剤がこれらの製品の消費を抑制するということは、まだ立証されていません。
ヘルスケア
ヘルスケア・セクターでは、GLP-1製剤を製造している企業の業績が当面向上すると考えられます。GLP-1製剤を製造している2つの主な製薬会社の1つは、デンマーク全体の経済規模(GDP)を上回る時価総額となっています8。医薬品会社は一般に、私たちが定めた高クオリティの基準を満たしていないため、私たちはグローバル・ポートフォリオでこれらの企業を保有していませんが、これらの企業は、特許を取得した医薬品から大きな利益を生み出すことができます。GLP-1に類似する製剤はその1つであり、その売上は特許による保護に依存しています。ひとたび特許期間が終了すると、ジェネリック医薬品との競争が激化するため、売上高や利益が大きな打撃を受ける可能性があります。企業の成功が少数の医薬品に依存している場合、この問題はさらに深刻になります。
ライフサイエンスおよびヘルスケア機器の企業に影響が及ぶ可能性があり、このことは私たちのポートフォリオに対して、より重要な影響を及ぼす可能性があります。私たちは、少なくとも一部の糖尿病関連製品を製造している企業の株価が下落したのは、行き過ぎであったと考えています。結局のところ、糖尿病患者が血糖値を監視し、治療薬を服用する必要があることに変わりはありません。私たちが保有している医療機器メーカーおよびヘルスケアの会社の報告によると、GLP-1製剤を服用しながらグルコースモニター(血糖値測定器)を使用する糖尿病患者の治療コンプライアンス(医師の指示に従った治療・服薬を行うこと)は、向上しています(つまりグルコースモニターの需要は安定)。また一方では、私たちが保有していた臨床試験会社は、GLP-1製剤の治験に関与していたため、その恩恵を受けました。さらに、GLP-1製剤メーカーが製剤の使用実態や副作用を監視することを望んだ場合、この臨床試験会社はGLP-1製剤のライフサイクル全体を通じて恩恵を受ける可能性があります。もう1つの保有銘柄である、テクノロジー、医薬品、バイオテクノロジーなどのサービスを提供する米国のサプライヤーは、GLP-1の無菌注射剤を提供することによる恩恵を受ける可能性があり、更にヘルスケア・セクターの売上高が増加した結果、研究開発への再投資が行われれば、実験用器具事業やバイオサイエンス試薬の販売にも、二次的な恩恵がもたらされる可能性があります。
推論の重み
GLP-1類似の製剤は高い関心を集めていますが、この製剤の長期的な副作用はまだ明らかになっていません。一部の研究によると、GLP-1製剤と胃腸への副作用との関連性、および(または)筋肉量の減少との関連性が示唆されています。また、一部の使用者に鬱症状が見られたことを受け、FDAは調査を決定しています。医薬品メーカーはこれらの問題を認識しており、すでに対策に取り組んでいます。実務的な観点からすると、製剤が十分に普及するまでに長い時間がかかるのは言うまでもありませんが、生産能力や保険金支払などの要素により、製剤の普及が制限される可能性があり、実際に、スタチン(脂質異常症の治療薬)の場合には、20年かかりました9。米国の保険会社が重要な役割を果たすと考えられ、この製剤の普及は、保険会社が製剤の保険適用を認めるかどうかにかかっていると考えられます。米国以外でも、この製剤の普及は、医療制度が保険適用を認めるかどうか、または現地の規制当局が製剤として認可するかどうかにかかっていると考えられます。
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マネージング・ディレクター
インターナショナル株式運用チーム
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ヴァイス・プレジデント
インターナショナル株式運用チーム
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50億円超100億円までの部分に対して 0.756%(税抜 0.700%)
100億円を超える部分に対して 0.702%(税抜 0.650%)
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