リサーチ・レポート
投資運用のクオリティ
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2024年4月30日
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2024年4月30日
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投資運用のクオリティ |
私たちはチームとして、過去四半世紀を費やして、世界的に最高水準のコンパウンダー企業を探し求めてきました。これらのコンパウンダー企業は、利益とフリーキャッシュフローが魅力的な成長率で長期間にわたり、着実に-そして買収に頼らずに-成長を持続することが可能であると考えられる企業です。
複利効果は強力な力です。例えば、1,000ドルを10%で7年間運用すれば、運用資金は2倍になります。さらに10年続ければ、6,000ドルにもなるのです。
私たちには、2つの主要な任務があります。一つは、コンパウンダー企業を発掘すること。もう一つは、割高な水準で投資しないように務めることです。企業の株価が高過ぎると思える場合、それは実際に高すぎるのです。そして、株価が適正で常識的な水準まで下落する危険性を負うことになります。最近亡くなったチャーリー・マンガー氏は、「適正価格で素晴らしい企業に投資する方が、素晴らしい価格で適正な企業に投資するよりも優れている」と発言しました。私たちも、彼の意見に賛成です。また、マンガー氏は独特の言い回しでこうも語っています。「株価が割安だから投資するのであれば、企業の本源的価値に近づいたら売却を考えなければなりませんが、それは難しいことです。しかし、もし数社の素晴らしい企業に投資することができれば、それらの企業に腰を据えることができます・・・。それは正しいことです。」ただ、私たちは彼の意見にあまり同意したくありません。実際のところ、ただ座って見ているだけではいけません。すなわち、複利で成長する可能性が損なわれておらず、脅威にさらされていないこと、収益が減速するリスクが無いこと、バリュエーションが妥当であることを、何度も確認することが不可欠だからです。私たちは、厳密なファンダメンタルズ分析と企業へのエンゲージメントの実施によって、この課題に取り組んでいます。
その企業が高クオリティなコンパウンダー企業であるかどうかは、何によって判断されるのでしょうか?私たちの定量分析によるスクリーニングでは、2つの指標があります:一つは、投下資本利益率(ROOCE:return on operating capital employed)、もう一つは、粗利益率(gross margin)です。ROOCEは、FactSetやBloombergのスクリーニング・ツールですぐに見つかる指標ではなく、ROOCEをグーグルで検索しても、おそらくROIC(return on invested capital)が表示される可能性が高いでしょう。しかし、ROOCEは私たちが発明した指標ではありません。ROOCEはROICの一種であり、ROICも重要な指標です。ROICの分母(invested capital)には「のれん」代が含まれ、過去の資本配分の決定が反映されています。本質的に、ROOCEが示すのは、事業を成長させるためにはどれだけの資本増強が必要なのかということです。自動車に例えれば、ROICが自動車のエンジンのクオリティとドライバーの過去の能力を足したものと考えれば、ROOCEは自動車のエンジンのクオリティだけということになります。
歴史的に見ると、ROOCEの高い企業は、ROOCEの低い企業よりも長期的に株価の年率リターンが高い傾向にあります。MSCIワールド指数の20年間のデータを使って、構成銘柄をROOCEの高い企業から低い企業まで5つの分位に分けた場合、ROOCEが最も高い分位のリターンは年率ベースで10.5%、次いで10.2%、9.5%、8.5%、そして最も低い分位のリターンは7.5%でした1。一見、分位間のリターンの差は、それほど開いていないように見えるかもしれません。ところが複利計算で考えてみると、1,000ドルを10年間、7.5%で計算した場合は1,970ドルになりますが、10.5%で計算した場合は2,456ドルになり、30%近く利益が多くなります。複利で計算してみることが、重要なのです。
ROOCEの解説
ROOCEは、明確に2つの部分で構成されています。ROOCEの収益部分である「RO」は、企業の損益計算書、具体的にはEBIT(利息支払前・税引前利益)から算出されます。一方、「OCE」(the operating capital employed)の部分は、貸借対照表に基づく数値で、運転資本(棚卸資産+売上債権-仕入債務)に、企業の有形固定資産を加えた合計金額です。高いROOCEを達成する最善の方法は、高い利益率によって「RO」の部分を高めると同時に、「OCE」が限定的である経営状態を達成することです。そのため、このような特徴を示す企業は、通常、利益率が高く資産の少ない事業を有しています。
安定した高い粗利益率が重要な理由
私たちが高い利益率を探す場合、高い粗利益率を探します。原価が比較的限定的である企業は粗利益率が高く、したがって、粗利益も大きい傾向にあります。ROOCEの場合と同様に、MSCIワールド指数の構成銘柄を粗利益率の高い銘柄から低い銘柄へと分位に分けてみました。結果は驚くほど類似しており、粗利益率が最も高い分位では、20年間の株価の年率リターンが最も高く(+11.5%)、粗利益率が最も低い分位では、リターンが最も低く(+8.5%)なっています2。
企業が、インフレ、ディスインフレ、デフレのいかなる経済環境に直面していたとしても、高い粗利益率の実現に不可欠な要素は価格決定力です。価格決定力とは、コストの上昇を顧客に価格転嫁できることを意味しています。また製造コストが低下すれば、価格決定力によって高い販売価格を維持することができます。これは、長期的に安定した高い粗利益率に反映されます。言い換えれば、価格決定力がなければ、高い粗利益率を維持することはできません。
自動車の例えに戻ると、高い粗利益はエンジンを動かすために必要な燃料、つまり企業のオーガニック成長(既存事業による成長)の原動力と見なすことができます。企業の粗利益が大きければ大きいほど、既存事業の売上を伸ばすための事業経費を使うことができます。こうした事業経費とは、一般的に人材(労働力)、研究開発(R&D)、マーケティングに関する費用です。これらは、長期的なROOCEの持続性の原動力となり、企業とそのブランド、ネットワーク、製品、サービスを、消費者であれ企業であれ、顧客にとって適切なものとして維持します。また、粗利益率が高いということは、製品原価の上昇によって売上に占める利益の割合が低下する度合が少ないということでもあります。
MSCIワールド指数の平均的な構成企業(MSCIワールド指数自体に代表される)の粗利益率は30%、EBITDAマージン(利払い・税引き・減価償却前の利益)は20%です2。この粗利益とEBITDAの間にあるのが事業経費です。これを数字で表すと、例えば平均的な企業の売上高が200億ドルだった場合、前述の平均的な粗利益率とEBITDAマージンを用いると、200億ドル×30%=60億ドルの粗利益、200億ドル×20%=40億ドルのEBITDAとなります。両者の差は20億ドルですが、これは売上の10%が事業経費であることを意味しています。私たちが保有する高クオリティ企業の一つで、米国を拠点とし世界有数のブランドをグローバルに展開する家庭用品及びパーソナルケア企業は、粗利益率が50%、EBITDAマージンが26%を誇っています。この差額の24%に該当する事業経費は、平均的な企業が人材雇用、イノベーション、マーケティング、広告宣伝にかける費用と投資の2倍以上で遥かに熱心であり、全体として、かなり優れています。
私たちは、経営陣が効果的に事業経費を使っていることを確認し、キャッシュフローをどのように配分し、場合によっては買収のためにバランスシート(現金と負債)をどのように使うのか、把握することに重点を置いています。2023年に発行した『買収すべきか、買収すべきでないか(原題:To buy, or not to buy?)』で述べたように、私たちは買収を嫌っているわけではありません。しかし、ROOCEを低下させるような買収が行われた場合、それは経営陣が資本配分を誤り、低クオリティの事業を買収することで、企業全体のクオリティを潜在的に-もしかしたら永続的に-低下させる可能性があると考えます。これは、2023年の同レポートで取り上げた、払い過ぎの問題とは別の話です。逆を言えば、ROOCEの上昇は、低下した場合と同様、注意すべき赤信号でもあります。短期的には、ROOCEの上昇は、研究開発費やマーケティング費用の削減など、単に事業経費を削減することで容易に達成できます。しかしこの場合、利益は増えますが、投資不足の結果、既存事業の売上の長期的な持続性は悪化することになるでしょう。ビジネスは減速し、企業の本源的価値は低下する可能性が高いでしょう。
投資の道は、とても長いものです。私たちはA地点からB地点へ急いでいく必要はなく、スピードを出し過ぎて燃料切れを起こさないためにも、流行に乗った派手なスポーツカーは必要としていません。また、安価で軽快な小型車を選ぶつもりもありません。私たちが求めているのは、信頼性が高く、常識的な性能を持ち、期待を裏切らず、ランニングコストがかからず、運転が複雑ではない自動車です。要するに、-どんな天候だろうと、どんな道だろうと-長く乗って満足できる自動車なのです。ROOCEと粗利益率が現時点で高い銘柄は、どの企業に注目すべきかを示しています。しかし、私たちの調査の大半は、企業が高い利益率で成長している場合に、その企業が直面するあらゆる課題-競合他社、破壊的イノベーター、規制当局、流行、景気サイクルのいずれによるものであっても-を考慮した上で、これらの指標が高い水準に維持されるかどうかを、判断することに費やされています。結局のところ(第3代米国大統領のトーマス・ジェファーソンには申し訳ありませんが)、「複利運用の代償は永遠に警戒を続けること」なのです。(トーマス・ジェファーソンの格言は「自由の代償として永遠に警戒を続けなければならない」)
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マネージング・ディレクター
インターナショナル株式運用チーム
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エグゼクティブ・ディレクター
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