リサーチ・レポート
複利効果
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2024年5月31日
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2024年5月31日
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複利効果 |
2024年1-3月期の株式市場は非常に好調でした。MSCIワールド指数は、前四半期(2023年10-12月期)の11%上昇に続き、9%上昇しました。株式市場の上昇は、予想利益の増加というよりは、株価収益率(PER)の上昇によるものです。MSCIワールド指数の今後12ヶ月間の予想株価収益率は、2022年9月の13.7倍に対して、3月末には18.6倍となっています。この水準は、コロナ禍の業績低迷期に(分母である予想利益が低下したために)達したピークに近く、また、2003年から2019年までの最高倍率である17倍を10%も上回っています1。
確かに予想利益は増加傾向にあり、年初来では2%、昨年1年間では8%増加しました2。 しかし、2024年から2025年の経済予測が横ばいであることから、景気見通しの改善によるものではありません。時間の経過によって、高い利益予想が年の遅い時期に移ったためです。これらの「より高い後年」の予想利益は、すでに高水準にある売上利益率のさらなる上昇を前提としているため、私たちは懸念を抱いています。例えば、わずか年5%以下の売上増加で、年10%の利益増加が見込まれてしまうからです。MSCIワールド指数のEBIT(利払い前・税引き前利益)マージンは、すでにピークに達した2023年の15.7%から、2025年には17.2%になると予想されています。これまで通り、株式投資において損失を被る状況は2つしかありません。すなわち、利益が低下する状況か、株価収益率が低下する状況です。— 現在、私たちはその両方について懸念を抱いています3。
2023年は「マグニフィセント・セブン」が市場を席巻しました。2024年に入ると、「ファビュラス・フォー(素晴らしい4社)」が話題となり、「マグニフィセント・セブン」は分化しています。しかしながら実態は、2023年のプラス239%の株価上昇に引き続き2024年1-3月期には89%上昇して3月末に時価総額が2.3兆米ドルに達した、米国の画像処理・集積回路システム企業(オムニバス・ワンと揶揄される)がけん引しました。MSCIワールド指数をベンチマークとする運用会社にとってこの銘柄を保有していないことは、2023年には155ベーシスのアンダーパフォーム要因、2024年1-3月期には151ベーシスのアンダーパフォーム要因となり、15ヶ月間で300ベーシス以上の影響を受けたことになります。現在、MSCIワールド指数の時価総額上位5銘柄で同指数の17%を占めているため、同指数は変動率が高く、これら上位銘柄と相関性が高い傾向にあります4。
このような、一部の銘柄への集中による株式市場の活況は、特に対ベンチマークでは、運用者にとって厳しい投資環境を形成します。私たちの対応策は、絶対リターンを重視し続け、長期的な複利効果を目指すことです。
私たちは、グローバル・ポートフォリオに含まれる企業が将来的に、株主価値を年率で約10%増やし続けることを、目指しています。そのためには、投資先企業の売上が、景気サイクル期間の平均で、年率プラス5%~6%で確実に成長しなければなりません。更にEBITマージンが年に1%改善し、フリー・キャッシュフロー・コンバージョン(EBITがフリーキャッシュフローになる割合)がほぼ100%で、フリーキャッシュフローの増加率が4%であれば、私たちの描いたリターンが実現します。仮にフリー・キャッシュフローの増加分の半分を配当金に充て、残りを自社株買いか、買収によって1株当たり利益(EPS)を押し上げた場合、配当利回りは2%、ポートフォリオのEPS成長率は約8%となり、株主価値の全体の増加は10%になります。私たちは、現在の株式市場が、このような株主価値の増加を実現出来るとは思えません。株式市場全体としては、好況の時は持ちこたえることができますが、不況の時には恐らく大きな打撃を受けることでしょう。米国の差し迫った景気後退の兆候は薄れつつありますが、心配なことは、コロナ禍の一時的な停滞を除けば15年間不況に陥っていないため、今後、不況がやってくるかもしれないということです。
将来のポートフォリオのリターンは、株主価値の増加だけではなく、株価収益率も要因の一つであり、現在の高いバリュエーションを考慮すると、株価収益率は、追い風よりも、逆風となる可能性が高いでしょう。短期的には、2022年の下落とその後の上昇に見られるように、株価収益率の変化によって、株式市場は変動するでしょう。私たちのフラッグシップ・ストラテジーもMSCIワールド指数も、株価収益率は過去と比較して高い水準にあります。私たちは、優れたキャッシュ・コンバージョンと、バリュエーションとクオリティの両面に重点を置いています。そのため、フリー・キャッシュフロー・ベースでは、私たちの戦略はMSCIワールド指数に対して約10%のプレミアムに過ぎません。投資企業のクオリティがMSCIワールド指数よりも遥かに高い事を勘案すれば、この割高性は全く問題無いと思われます5。
良いニュースは、ポートフォリオの株主価値が複利的に増加する場合は、長期的には複利効果が運用成果を高めるということです。例えば、株価収益率が20%下がった場合、年率プラス10%で株主価値が増加しているポートフォリオの5年リターンは、(単純に計算して)年率6%に低下しますが、10年リターンは依然として賞賛に値する年率8%のままです。(株価が20%下落してから5年で50%増加、つまり5年で差し引き30%増加ならば年率+6%)(20%下落してから10年で100%増加、つまり10年で差し引き80%増加ならば年率+8%)対照的に、MSCIワールド指数は二重の脅威に直面しています。少なくとも株価収益率は低下し易く、予想利益はさらに脆弱といえます。この二重の脅威に対処するためには、企業のクオリティとバリュエーションの両方に「二重のこだわり」を持つことが、私たちには最善のアプローチであるように思えます。結局のところ、MSCIワールド指数が過去5ヶ月間で25%、過去1年半で50%のリターンを記録した後では、ポートフォリオを変更するよりも、従来の優良企業のポートフォリオを堅持する方が優先されるべきことでしょう6。
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マネージング・ディレクター
インターナショナル株式運用チーム
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