リサーチ・レポート
2024年はE、S、Gの各要素を分離する動きが加速すると予想
|
2024年 アウトルック
|
• |
2023年12月14日
|
2023年12月14日
|
2024年はE、S、Gの各要素を分離する動きが加速すると予想 |
1 | 2022年後半から始まった責任投資業界の有り様に対する議論の高まりによって、責任投資に特化したマネジャーは、企業の気候変動や社会的な事業目標の分析において財務的な実行可能性をますます考慮するようになっています。 |
|
2 | 責任投資に特化したマネジャーもその他の一般的な運用者も、ESGリサーチをより徹底かつ詳細に行うようになっており、人的資本管理の重要性についてコンセンサスが形成されつつあります。特に、企業の価値創造の潜在力を高めるうえで、従業員の多様性が重視されるようになっています。 |
|
3 | 世界経済の脱炭素化は、化石燃料からクリーン・エネルギーへの移行コストが当初の予想よりも嵩むことが明らかになるにつけ、達成が困難な課題との認識が高まってきています。 |
2024年の展望
自由市場資本主義は、政府が指示する投資や経営の決定とは異なり、投資家、企業、そしてその取締役会の自発的で市場原理に基づく行動による解決を基本としています。2024年を展望するに際して現在の状況を考えると、自由市場資本主義が気候変動への対応という難題に直面している一方で、企業においては多様性の改善に進展が見られます。この二つの異なる事象は、経済的現実の結果によるものであり、2024年も継続すると考えらます。
2024年は2つのESGテーマが市場を支配
投資家が自らを或いはその運用商品にいかなるラベル付けをしていようと、企業がどのように労働力を充実させ管理するのか、またどのように事業や製品で脱炭素化していくのか、その具体的な内容にますます関心を寄せる投資家が増えています。この2つのテーマは、まったく異なる理由により、2024年の金融市場で今までよりも大きなテーマとなるでしょう。それに伴い、投資家が自らにとって最も重要かつ具体的な課題にフォーカスしやすくなるようにESGスコアリング手法も変化すると思われます。
DEIの普及が促進される
この3年間で、職場における多様性(diversity)、公正性(equity)、包括性(inclusion)(DEI)の推進がビジネスケースとして成立し得ることが十分に裏付けられ、従業員の多様性の特性について自主的に情報公開する企業が増えています。また企業の多様性向上は、投資家にとっての財務的な価値創造の向上につながる可能性があるとする調査報告もあります。何年にもわたり実例を見てきた多くの投資家、経営者及び企業の取締役会メンバーが、DEIの改善が財務的にプラスとなることを認めるようになり、それが真の改善を達成するための推進力として定着しつつあります。私たちは、今後、重要な投資判断材料の一要素としてDEIがさらに注目されるようになり、DEIを大幅に改善した企業が引き続き強力な価値創造を実現すると考えています。
経済的な問題が、気候変動対策の進展を阻む
クリーン・エネルギー・プロジェクトへの資金流入の道筋をつけることや、炭素排出量と排出量削減の目標に関するデータを企業が提供するなどの点において、2023年には大きな進展がありました。しかしながら、洋上風力発電プロジェクトに関する経済的リターンの水準や、クリーン・エネルギー事業を運営するために必要となる産業全体を再構築する資金の額が膨大であることから、いくつかの有名な風力発電プロジェクトが中止となり、クリーン・エネルギーへの転換を目指す多くの業界目標は後退してしまいました。このようなプロジェクト遅延の原因は、経済的現実といえます。すなわち、いくつかの脱炭素化プロジェクトの予想リターンは、低水準もしくはマイナスなのです。
この点において財務的な実現可能性の分析は最も重要であり、2024年を通じて、責任投資の投資家とその他の一般的な投資家が共通して重視するべきこととなるでしょう。各国の政府において、カーボン・プライシング制度、炭素税、国境炭素税、その他クリーン・テクノロジーや再生可能エネルギーの開発・導入にインセンティブを与える手法を導入する動きが始まっています。脱炭素化における経済的課題をどのように解決するか ― 政府の政策や規制によって解決するのか、それとも自主的な市場主導の解決策や炭素市場の自発的行動を通じて解決するのか ― が、今後大きな注目点となるでしょう。
ESGスコアリングの変化とE、S、Gの分離
責任投資における有力な投資家は、総合的なESGスコアに依存するのではなく、ESG評価を環境、社会、ガバナンスの各サブ・カテゴリーに分類して評価するようになると予想しています。そうすることで、E、S、Gの各エクスポージャーがもたらす財務的影響についてきめ細かい調査が可能になり、また、各企業がこれらの細分化したそれぞれのエクスポージャーをどのように管理しているかについて、相違点を詳細に比較調査することができるようになります。
重要なことは、このアプローチによっては、企業内のある分野のエクスポージャーの管理が優れているからと言って、それが他の分野の脆弱さを「相殺」するものではないことを認識することができることです。人材の多様性が優れていても、気候変動リスクに対する脆弱なアプローチを解決することはできません。それぞれの項目を影響度と価値創造の観点から理解する必要があるのです。
結論
総括すると、特定のESGエクスポージャーに関連する財務的影響や、関連するエクスポージャーの管理の企業間の相違点について、さらに正確で詳細な分析を行うことにより、ESGリサーチの規律が強化され、資本市場の機能が向上することが期待できます。このことは、どの企業に資金を配分するかという投資判断を通じて改善される可能性のある企業のインパクトを特定しやすくなるため、責任投資の投資家にとって有益であると思われます。また、より短期的なリターンを目指す一般的な投資家の眼を、重要なESGファクターの優れた管理により財務的価値を創造することができる企業に向けさせ、資金を提供させることにも役立つでしょう。一般的な投資家と責任投資の投資家の中でこのような共通の視点を共有する割合が増えることで、結果として、財務的に実現可能なアプローチに基づき最も重要なESGファクターを管理できる企業に対する市場での差別化が進むと予想しています。